Every time I think about you, baby.
困った男だ、この男は。
くつくつと笑いながら曹操は、横たわる夏侯惇の髪を一房手に取る。
不器用ながら多少は手入れをしているのであろうその髪は、さらさらと指の間から零れ落ちた。
対して夏侯惇は、口をへの字に結び、何も言わず曹操の隣で寝転がっている。不機嫌そうに、けれど決して怒っている目でもない。何か理不尽なものに拗ねているような、そんな顔だ。
「なあ夏侯惇よ、妬いておるのか」
曹操が笑いながら問う。つん、と髪を引っ張る。
夏侯惇はフンと鼻を鳴らして、そっぽを向いた。曹操は更に笑う。
「何が可笑しい、孟徳」
不機嫌そうな声でそう問い、そのまま寝台に顔を突っ伏す。
その様子に、曹操は弄んでいた髪を戻し、夏侯惇を仰ぎ見る。
「あれはわしの息子だぞ」
親しげに接して当然ではないかと言下に込めて言うと、くぐもった声で「知っている」と短く返ってきた。顔は伏せたままだ。
曹操は肩をすくめ、また笑った。
困った男だ、あの男は。
夏侯惇は溜息を吐く。
本当は知っている。親しげに挨拶をする程度、他意がないことなど知っているのだ。
けれど何となく胸にもやもやとしたものが押し寄せてきて、それが気付かぬ間に眉間に皺を寄せる。
曹操は、そういう顔をすることを知っていて、あえてそうするのだ。夏侯惇にしてみれば、まったくもって始末が悪い。
けれどこうして曹操の寝台に突っ伏していれば、おもむろに髪を弄んでは言葉をかけてくるので、まあ気分は悪くない。
もやもやしたものが晴れるまで、そうして夏侯惇は目を瞑り、曹操の声に耳を傾けた。
困った男だ、この男は。
曹操は笑う。そうしてまた一房、夏侯惇の髪をすくった。