Fly
ああ、私はただただ愛が欲しいのだ。
枯れるほど愛し、溢れるほどに愛される。
私はただただ愛が欲しいのだ。
風が強く吹きすさぶようになった。其れはとかく冷たい風だ。
冬の到来か、上に羽織った絹地の羽織の襟元を手繰り寄せる。
しかし風はひゅうひゅうと容易く絹を通り越し、
首元から、袖口から冷えた体を更に冷やす。
絹一枚で防げる寒さではない。
晒台の上から眼下の庭園を見る。
手入れされた其れは、父の趣味であったろうか。
こういった芸術に煩い父は、その一方で豪奢な造りをひどく嫌う。
自分は全く違った。そういった豪奢な造りをこそ美しいと思う。
この庭には父の色が濃い。生えた草や花、木は恐らく食用にも薬にもなるのだろう。
実用こそ優先。華美は不要。
そう言った父は、玉や金、銀の美しさを知らぬのだ。そう思った。
「曹丕殿」
ふと、咎めるような声が眼下から届く。
見遣ればそこに馴染みの顔が居た。いつものように不快そうな顔でこちらを見ている。
「何をしておられるのです。風邪を召されますぞ」
声に重ねて、溜息。見つけなければよかったと思っているのだろう、この男は。
…何だか可笑しくなってきた。口元を歪める。
醜悪な顔を見たとでも言わんばかりに眼下の男は顔を歪めた。
「仲達。ここから飛び降りれば、お前は私を受け止めるか?」
「…仰っていることが、わかりかねます」
それでいい。くつくつと笑む。
腕を大きく広げる。司馬懿の顔が少し歪んだ。
歪んで歪んでまっすぐに飛ばないこの身と、この心がもどかしい。
けれど自分とこの男は、これでいいのだと思った。