ひとり

人並み以上に鍛えたつもり。
精神なんて壮健間違いなしです。
けれどやはり、やはり身体は人間でした。

ドタバタと大きな足音。次いで、大きな音を立てて戸が開かれた。
目を遣れば、息を切らした孟達がそこにいる。

肩で息をしながら、変にぎこちない笑みを浮かべ、

「げ、元気ィ〜?」

などと間の抜けた声を出した。

人並み以上に鍛えたつもり。
精神なんて壮健間違いなしです。
心にやましいところもございません。
けれどやはり、やはり身体は人間でした。

「お前が風邪ひくなんてね」

果物食べるといいらしいよ。そう言って孟達が差出してきたのは、
この辺では滅多に取れない龍眼という果物だった。

「これ俺大好き」

へらへら笑ってそれを手に取れば、孟達がぷっと吹き出した。
何だよ、と問う。
少し口を尖らせ床の上から見上げれば、軽く首を傾げながら、

「凄い鼻声だよ。味覚あんの?」

と問い返してくる。

さぁ、とだけ答えて龍眼の皮を剥き、果肉を口に含む。
噛むとじわりと果汁が出てくる。口いっぱいにほんのり甘い味が広がった。

「味覚はあるみたい。マジうまいよこれ」

それは良かった、と言って孟達が笑った。

「身体、辛いところない?」

「ん?何、珍しくサービス精神旺盛な…」

「聞いてみただけ」

しばし沈黙。何だか妙なその沈黙に耐え切れず、

「やっぱり身体だるいかも」

俺って優しい。すると孟達は肩を竦める。

「だるい…時はどうしたらいいんだろうね」

知ってたらとっくの間に実行してる。

「添い寝してやろうか?人肌恋しいでしょ」

言うなり孟達が寝台にもぐりこんできた。
狭い上に、熱の所為か少しだけ暑苦しい。

「いいよ、いらない」

「たまには甘えていいよ。
 お前は甘えられる相手、俺ぐらいしかいないんだから」

甘えてんのはどっちだよ。ふっと息だけで笑う。
喉が痛かった。

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