ノイズ
あなたがくれた想いを束ねあなたが残した心を束ねあなたが無くした夢を束ね
捕まえようと手を伸ばした。
しかしその手は、指は、柔らかい絹を掴むばかり。
(……?)
伏せていた顔を上げる。寝惚け眼を数度擦って、隣を見た。
そこには今しがた触れた絹の敷布。
そして幾分離れたところに漸く目的のものを見つけた。
「陳宮」
声をかける。返事はない。
近寄れば、かすかに寝息が聞こえる。
ぽんぽんとその肩を叩いて、起こした上半身をまた布団に沈めた。
薄ぼんやりと、閉じた視界に光が入っている。
朝日はもうとうに昇りきり、時間で言うなれば今は夕刻であろう。
西日が小さな出窓から覗いているようだ。
赤い。ただ赤い。
(寝すぎたか)
起きねばならぬ。そう思い、ゆっくり目を開ける。
強烈な西日が目を刺した。丁度日が落ちるところだ。
何故このような時間まで寝てしまったのだろう。
上半身を起こして隣を見る。
そこにはやはり、柔らかな絹の敷布があるだけだった。
(もう起きたのか)
当たり前だ、そう思って眼を数度擦り、今度は寝台から立ち上がる。
ぎしりと音を立てて、寝台が軋む。腕に絹が絡んだ。
軽く払ってそれを解く。
(起こしてくれてもよいものを)
いや、起こしてくれたかもしれない。ならば起きぬ自分が悪いのだ。
幾分粗末な服を身にまとう。腰の帯をしかと締め、鏡を見た。
髪を直す。人前に出れる姿になって漸く、室から外へ出た。
長い回廊。彼の仕える君主の城へとそれは繋がっている。
「張遼、今日は随分遅かったな」
肩を叩く存在があった。いくらか気さくなその態度。
「申し訳ござらぬ、高……」
「?」
振り返ったその先には、隻眼の将。
思わず言葉に詰まる。
―今自分は、誰の名前を言おうとしていたのか?
「あ、いや、」
「どうした、今日は妙だぞ。まだ寝惚けているのか?」
はは、と冗談めかして笑う男。
私はそれに合わせて笑った。
「長い夢を、見ていたようで」